昨年、最後まで登り切れなかった黒部丸山東壁(岩壁の高低差400m、写真左)、9月10・11日でリベンジしてきました。
前回は、最終ピッチでトップが大ハングを乗り越えようとした瞬間、アブミを掛けたハーケンが折れ、見事なバンジージャンプ。トップの戦意喪失、時間切れでそのままDNFとなりました。
今年わたしは、まず前穂高屏風岩の東壁ルンゼを目指して準備してきました。が、入山直前で不本意なDNS。そのわだかまりを帳消しにするためにも、昨年の丸山東壁のパートナーの後輩M氏を説得して、丸山東壁に再挑戦することにしました。
ただ、今年は、土日の天気が不安定で予定がずるずると延び、二泊三日ののんびり日程は組めず、一泊二日ホテル丸山ビバークの強行軍となりました。M氏のトレ不足も気になりますが、そこは時間をかければベテランなんで大丈夫と判断しました。
上部大ハングを高度感を楽しみがら越えるわたし(M氏撮影) 9月9日信濃大町に深夜到着、9月10日7時30分始発のトロリーバスで8時前に黒部ダムに到着しました。
それにしても、異常に暑い、ここが山の中とはとても思えない暑さでした。バス停から黒部ダムを下って下廊下を歩いて1時間で内蔵助谷出会いに到着しました。
しかしながら、あまりの暑さですべてがゆっくりになってしまい、テント張って、水を汲んで、食事をして、登攀準備が完了したのが10時半ごろ。さらに丸山東壁取り付きまでの移動で、丸山からの押し出しの途中から右のブッシュ帯に入る踏み後を見つけることができず、猛暑の中、とんでもないブッシュ漕ぎをして取り付きに辿り着きました。結局少し休憩して壁を登り始めたのが12時前になってしまいました。正直言って、この時点で暑さでかなりバテてました。
丸山東壁緑ルートの取り付きへは内蔵助谷の登山道から丸山東壁の押し出しを上がっていくのですが、40~50M程度上がったら右のブッシュの中に入って細い涸れた沢筋を探し、それに沿って壁を目指して右上していくのが正解です。決して押しだしを詰めてはいけません。わたしたちは上部まで詰めてしまいひどい目にあいました。私たちの登った後はブッシュ帯に帰りに明確な踏み跡を作ったので楽勝だったと思いますが、踏み跡がないと多少のブッシュ漕ぎを覚悟した方がいいです。
丸山東壁1ピッチ目をリードするM氏、スタートが遅くなってしまいました。 初日の行程は、大ハング下のバンドまで実質6ピッチ、1ピッチ1時間で登ればぎりぎり明るい内に登り切れるかなと思っていたのですが、15時くらいまでは猛暑、さらに快適なビバークを目指して豊富な水と食料など荷物は相当重く、ルートを変な思い込みで迷ったところもあって5ピッチ目最後の50Mを残して完全に日が暮れてしまいました(たぶん19時)。
バンドまでの最終ピッチは、ボルトラダーから右へフリー混じりのトラバース、最後は木登り、草付き。わたしが最初リードしたのですが、ロープが流れずトラバースが終わるところでピッチを切りました。このトラバースにとんでもない時間がかかったんです。安全地帯のバンドに着いて時計を見てびっくり、なんと22時になっていました。
月明かりとヘッドライトだけで、ルート中のハーケンがなかなか見つからず、途中いい加減にハーケンを打って体重かけたら抜けたりして結局強引なフリーで抜けるなど試行錯誤の繰り返しでした(要するにルート外してます)。セカンドも通常のようにスピード上げて登ることは難しく、ただただ時間ばかりかかりました。
ちなみに、ギアといっしょにぶら下げていた非常用の小さなヘッドライトを腰にぶら下げて足下を明るくし、最近買い換えたばかり明るいヘッドライト(spot)を頭に着けて登ったのですがこれは有効でした(ハセツネのヘッドライトスタイルです)。
ホテル丸山では、水も各自残り2L残っていて、洞窟でインドの香を焚いて、ウイスキー飲んで、お腹いっぱいになるまで食事して、シュラフカバーとマットで快適なビバークをしました。パートナーのMさん、なんとシュラフカバーではなくシュラフを持って上がっていました。こんな荷物ですから登攀スピードは上がらないわけです。
二年かけてやっと
丸山東壁登れました。歴史を感じながら高度感いっぱいでとっても楽しい岩登りでした。この緑ルート、これからもアルパインクライミング愛好家に長く登ってほしいです。
今回の反省点は、たとえ登ったことのあるルートでもへんな思い込みをせずに十分ルートを確認して、登ったり懸垂下降をしたりすることだと思います。思い込みが時間を浪費し、事故につながっていくことを強く感じました。
【登攀装備】
- 小型のアマ無線を持っていきました。これがないともっと時間がかかったはずです。沢の音がうるさくて声が通らない壁なので、ここでは必須です。小電力のトランシーバはちょっと岩影に入ると繋がらないのでアマ無線をお勧めします。イアホンのコードが引っ張られてコネクターが外れることがあるので、しっかりテープで固定してしまった方がいいです。
- 用意していたインチキ棒、1回だけ使いました。2ピッチ目の草付きがとっても悪く、古い残置スリングが垂れ下がっているのですが、これに体重なんてとてもかけられません。ハーケンも打てるところがなく、結局残置スリングか草をホールドに次のピンまで3M登るしかありません。さすがにリードでそれはできないので、秘密兵器の折りたたみ傘の柄で作ったインチキ棒を使ったわけです。ただ、アブミの最上段にのっても届かなかったので、さらに短いスリングをセットして足を入れインチキ棒のフィフィをなんとか上部のボルトに引っかけました。その後、セカンドが迅速に登れるように2連結の長いスリングをセットしました。でも、きっとこの箇所は草付きの中を探すとピンがあるのでしょうね、悪すぎます。
- 途中までしか入っていない古いハーケンは要注意です。昨年私たちが敗退したのはまさにそれにタイオフせずに体重かけてしまったからです。今年も翌日登った知人のパーティが同様にハーケンが折れてフォールしたようです。タイオフ用の細くて短いスリングが活躍しました。途中まで入った古いハーケンは面倒でもこまめにタイオフしないといけないですね。
- バンドからの下降点に一つボルトを追加しました。ついでにロープが流れるように、スリングにリング等をセットしています。ただ、新規のボルトは完全に首まで入っていません。でもこの下降点はこれでかなり安全率高くなったはずですよ。この下降点からは草付きを越えたら右斜めに降りてください。でないとルートから外れます。
懸垂下降で間違ったところを降りるようなことも考えて、重いけどボルトセット、ハーケンと十分な捨て縄があると安心です。
ルートの詳細は、以下をご覧ください。
左の写真は1ピッチ目(リードはM氏)。1ピッチ目は最初はフリー、その後ボルトに沿って右上、そのまま右に行かず途中で左上してレッジにトラバースします。このピッチ濡れていることが多いので、前日午後乾いている時にフィックスロープ張ってしまった方がいいかも。
右は2ピッチ目。上部の草付きが悪いです。わたしはインチキ棒を使って草付きをだましだまし登るのは避けました(怖くてできません、そんなこと)。 3ピッチ目(リードはM氏)。このピッチは前半にある三日月ハングの下まで登ります。ビレイポイントから数メートル右から登るのがポイントです。 左は3ピッチ目三日月ハングに迫るM氏。このハングの直下でアブミビレーとなります。このピッチからすべてアブミビレーなので足や腰が痛くなります。右は4ピッチ目、三日月ハングを乗り越えるところを上から見たところです(リードは私)。このハングはピンの間隔が短いので簡単です。今回ハングのすぐ上でピッチを切ったのですが、その10M上でピッチを切った方が後のピッチには好都合でした。 左は5ピッチ目を登り始めるM氏。この後わたしがセカンドで登り切るころは真っ暗になりました。右はわたしが真っ暗の中6ピッチ目のトラバースをした後ピッチを切って、交代したM氏がバンドまでの最後のピッチを登るところです(7ピッチ目)。最後に木登りする松の木には目を光らせたフクロウがいました。
夜間登攀、初めてでしたが時間がかかります、高度感はまったくないです。時間はかかりましたが体力の消耗は無かったと思います。夜でも特に焦らずに登れたと思います。 バンドにある洞窟「ホテル丸山」に腰を下ろして落ち着いたのはなんと22時半でした。まずはウイスキーのストレート、それから食事して夜遅くに寝ました。シュラフカバーのわたしは夜明け前は少々寒かったのですが、日が照り始めると気温は急上昇です。もうこれ以上寝れないところまで寝て明るくなってから行動開始しました。 左は下から8ピッチ目、最初かぶり気味のルートです。これを登り切ると9ピッチ目、いよいよ核心部の張り出し5Mの大ハングを越えます(右の写真)。今回はわたしがリードです。昨年触れなかった大ハングを登ります。大ハングの3ピン目のボルトが遠いです。残置スリングがかかっていますが、それは一切触らずクリップ。でも初登者は本当にこんな遠いところにボルトを打ったのですか? ちょっと信じられないです。
あとは高度感を味わいながら、快適にハングを越えていきます。ハング越えの最終段階、気を抜かずに小まめにランニングビレーを取っていきます。 左はM氏が9ピッチ目をセカンドで登っている途中に撮影した上から見たところ。400Mの高度感です。右はハングを越えたところの終了点でビレイする私です。本当はこの上に2ピッチあるのですが、木登り混じりのピッチであまり登られていません。 終了点からいろいろトラブルもあってやっと降りてきたわたし、放心状態です。疲れました。